いのたま
line

コラム(4)
line

第4回★アフリカの精神医療 -3-2001/04/22

前回では、南アの呪術医による治療を紹介しました。他の国ではどうかというと、バンツー語族系が主流を占める南部〜東アフリカにかけては、共通点が多いです。西アフリカの事情は知りません。

ケニアのある地方では、頭蓋骨に穴を開ける手術が今でも行われています。片頭痛やてんかんに効果があるそうです。意外な外科手術としては、骨折を深く掘った穴に入れて治す、一見トンデモ系ながら、実はギプスと同様の効果という合理的なものもあります。

アフリカで精神疾患が増えたのは19世紀から20世紀と言われます。ヨーロッパの植民地になり、近代化の波が押し寄せた頃です。とくに増加したのが女性のヒステリー症状。これは興味深い現象ではないでしょうか。

フロイトはヒステリーを中心に理論を組み立てていくのは19世紀末です。ところが、第一次世界大戦が終わる頃には、それ以前のような激しいヒステリーは少なくなるのです。

近代化がどっと進む時というのは、男女の間で差が生じます。男性は、第一次産業を離れ、事業主の下で働く労働者となる人が現われる。良いポストを得るには教育が必要ですし、男尊女卑の意識も働いて、教育を受ける機会も男性のほうが多かったのです。日本の戦前を振り返ると、近代化は男性に早く、女性に遅く訪れるのは明らかですね。

男女の間での近代化の差、生活共同体の喪失は、女性側に不安を生みます。ヒステリーは、近代化の中で生まれる精神疾患ではないでしょうか。ヒステリーという言葉自体、もとは女性の病気と考えられていて、男女間のズレから生じる精神症状を男性側の視点から見たものです。今は転換性障害と言われますが、ジェンダーの問題を抜きにして、名前だけ変えてもどうなのかな、と思います。

話をアフリカに戻しましょう。アフリカのほとんどは一夫多妻制で、急速な近代化が女性にもたらす不安はかなりのものだったと想像できます。また、近代化イコール植民地化で、男性もつらい立場でした。家に帰って、妻に当たり散らすのはざらでした。さらに、ドメスティック・バイオレンスの温床となる風習もあります。婚資です。結婚する時、男性は女性の家族に家畜を贈るのです。南アでは牛10頭、ケニアでは牛数頭と鶏が相場、都市部では相当する現金です。

20世紀後半は、独立、内戦、圧政の時代です。PTSDが増えます。また、婚資の風習は今も残っています。男性側には、どうしても「妻を買った」という意識があり、ドメスティック・バイオレンスは現在でも深刻な問題です。

「アフリカの精神医療」は今回が最終回です。雑談ばかりでしたが、読んでいただき、ありがとうございました。

次 次 次 上 上 上 前 前 前